アーマード・トルーパー
アーマード・トルーパー(Armored Trooper)とは、『ボトムズシリーズ』に登場するロボット。
概要
汎用人型機動兵器の総称。劇中では略称の「AT(エーティー)」と呼ばれ、正式名称で呼ばれることは少ない。全高は4メートル前後と、人が搭乗するロボット兵器としては最小クラス[1]。
本作の舞台となるアストラギウス銀河では、惑星破壊兵器が飛び交う銀河規模の壮大な宇宙戦争が行われているが、互いの資源惑星を破壊していくうちに双方が資源不足になっている。そこに「相手陣営の惑星を傷付けずに占領する」という需要が生まれ、拠点制圧兵器として生み出されたのがこのATである。
極限までに汎用性と生産性を高めた兵器で、町工場程度の施設があれば製作や改造を安価に行うことができる。操縦も非常に簡単で、少しの訓練で誰でも動かすことができる。その一方で無駄な機能は徹底的にカットされており、その中には機体の耐久性や持続性も含まれる。ATは大切に扱う決戦兵器でなく「一つの作戦で使い捨てる」ようなものなため、作戦遂行のための短期間だけ持てば良いとされているのである。特筆すべき点は、パイロットの生存性を高める機構も無駄なものとして切り捨てられている(手持ち型の消火器やヒーター程度は有る[2])ことであり、それ故にATは「鉄の棺桶」の異名を持つ。
ATおよびAT乗りは作品タイトルである「ボトムズ(最低野郎)」という異名で呼ばれることもある。これは、「パイロットの命よりも生産性を重視した最低のコンセプト、機体とともに使い捨てにされるような底辺の兵士たち」といった意味からきたものとされる。後に英語タイトル『Armored Trooper VOTOMS』と合わせる意味で、「Vertical One-man Tank for Offence & Maneuver-S(攻撃と機動のための直立一人乗り戦車)」の略称である、という設定が追加されている。
主なアーマード・トルーパー
ATはバリエーションの種類が数多くあるので、本項ではスパロボに登場した機体のみを紹介。
ドッグ系AT
- ATM-09-ST スコープドッグ
- ギルガメス軍制式ミッド級AT。非常に優れた生産性と整備性により後々主力機の更新が出来なくなるほど幅広く普及している。
- ATM-09-STC ストロングバックス
- バトリング用の装甲強化タイプ。
- ATM-09-WR マーシィドッグ
- スコープドッグの湿地戦仕様機。元々のスコープドッグが機密性を欠いた構造のため水陸両用機ではない。
- ATM-09-GC ブルーティッシュドッグ
- 秘密結社が開発した、スコープドッグのPS用カスタム機。右腕が鉤爪付きのガトリングガンに換装されている。
- ATM-09-RSC スコープドッグ・レッドショルダーカスタム
- レッドショルダーにて採用された重装仕様機をキリコがあり合わせのパーツで再現し、バニラがレッドショルダー隊にあやかって肩を赤く塗ったもの。
- この時点ではまだ、キリコが自分が元レッドショルダー隊員であることを明かしてなかったため、本来とは逆の左肩が赤く塗られており、色も明るい。
- ATM-09-STTC スコープドッグ・ターボカスタム
- レッドショルダーにて採用された高機動戦闘仕様機。
- ATM-09-SA スコープドッグII
- スコープドッグの宇宙戦仕様機。
- ATM-09-LC ライト・スコープドッグ
- 機体の軽量化を施したスコープドッグ。高い機動性と旋回性を誇る反面、防御力は無いに等しい。
- ATM-09-DD バーグラリードッグ
- 脚部にソリ型駆動ユニット「トランプルリガー」を装備した荒地戦仕様のスコープドッグ。
トータス系AT
- ATH-14-ST スタンディングトータス
- ギルガメス軍制式ヘビィ級AT。
- ATH-14-SA スタンディングトータスMk-II
- スタンディングトータスの宇宙戦仕様機。
- ATH-14-WP スタンディングタートル
- スタンディングトータスの水陸両用仕様機。
- ATH-14-WPC スナッピングタートル
- 秘密結社が開発した、スタンディングタートルのPS用カスタム機。
秘密結社製AT
- XATH-P-RSC ブラッドサッカー
- 当初は「グラントリードッグ」という呼称でギルガメス軍次期主力AT候補だった機体。計画自体は秘密結社が試作機を強奪した結果中止となっている。
- 「吸血鬼」の名が示す通り、「吸血部隊」と恐れられたレッドショルダー隊の生き残りが使用する。
- XATH-02-SA ストライクドッグ
- PS用に開発された新型AT。ドッグ系に似た見た目だが一回り大きいヘビィ級。
- XATH-02-DT ラビドリードッグ
- ストライクドッグの量産仕様機で、継戦能力が向上している。後に、ギルガメス所属のメルキア軍が量産して使用している。
- XATL-01-DT ツヴァーク
- 唯一のライト級AT。全高は3メートル弱と、ドッグ系ATを下回る。
バララント軍製AT
バララント軍のATの型式番号と名称はギルガメス軍による呼び名が設定として扱われている。
- BATM-03 ファッティー
- バララント軍制式宇宙戦用AT。地上用の機体も存在する。
- BATM-04 チャビィー
- ファッティーの後継機。
- BATH-XX エクルビス
- バララント軍の次期主力AT候補として開発された新型機。ヘビィ級ながら驚異的な運動性を誇る。
その他
- ATH-06-WP ダイビングビートル
- 最初から水陸両用機として設計された機体で、2時間の潜水活動が可能。ただし、高価。
- ATH-Q64 ベルゼルガ
- 惑星クエントで製造されているハンドメイドATで、細部形状や型式番号の違う同型機が多数存在する。西洋の甲冑騎士を思わせる外観と、左腕に装備されているシールド一体型パイルバンカーが特徴。
- クエントでしか産出されない「クエント素子」が電子系に使われているために非常に高性能だが、非常に高価でもある。
- XATH-11 エルドスピーネ
- マーティアル教団のアレギウム防衛隊が運用する、ヘビィ級AT。
左腕付け根部分にワイヤーアンカー射出装置「ザイルスパイト」を装備しており、これを建造物等に打ち込む事で立体的な機動を可能としている。 - XATH-11TC オーデルバックラー
- エルドスピーネの指揮官仕様機。頭部がドッグ系ATのものに換装されており、ベルゼルガと同様のシールド一体型パイルバンカーを装備する。
関連用語
- 耐圧服
- 所謂パイロットスーツのこと。ATにはパイロットの生命維持のための装備は無いので、これだけが命綱。ただし着心地は悪くないのか、劇中ではキリコを含め普段着同然としている者も少なくない。
- 特にスコープドッグ搭乗に際しては、機体が気密性度外視の構造のため必需品であるが、他の機体でも宇宙はもちろん寒冷地・砂漠など過酷な環境下での作戦行動時には必ず着用する必要がある。
- ヘルメットはそのデザイン上、ゴーグルを下ろしていると顔が確認し辛い。しかも、大抵の者は耐圧服が同じ[3]。
- ゴーグル
- ATの視界をパイロットが見るための物であり、右側面から伸びるコードでAT本体と接続し、視覚情報はゴーグルを介して目に直接投影される[4]。
- 一応、機体によってはコックピットハッチを開放したまま直接目視での操作も可能だが、コックピットが剥き出しの状態になるため、非戦闘時はともかく戦闘中にこれを行うのはほとんど自殺行為である。なお、対ATライフルに接続する事も出来、スコープを覗かなくても狙撃が出来る。
- ミッションディスク
- ATは基本動作プログラムが書き込まれている「ミッションディスク」によって、ある程度の操縦自動化がなされている。そして、ミッションディスクのプログラムをカスタマイズすることで、パイロットのクセに合わせたATの動作チューニングを容易に行えるようになっている。
- TVシリーズ内でも、キリコがPSのイプシロンに対抗するために、ゴウトの店のPCを借りてミッションディスクをカスタマイズする描写がある。
- ミッションディスクはATの基本操縦技術を習得しやすくしている反面、「AT乗りはいくらでも補充が効く」「使い捨てても問題無い」という風潮を高める要因の一つにもなっているとも言える。また、ATがダメージを受けたり長時間使用するとディスクが「焼き付き」使用できなくなる事がある。
- ゲーム内では、ATのパイロットが「ミッションディスクが焼き付きやがった」、キリコが「ミッションディスクが役に立ったか」等の台詞がある。
- なおATを動かす事自体にはミッションディスクは必要ではなく、キリコのスコープドッグIIは劇中イプシロンとの戦闘中にディスクが途中で焼き付いたにも関わらず戦闘を続行している。
- ポリマーリンゲル液
- ATには内燃機関は搭載されず、人工筋肉の一種である「マッスルシリンダー」によって四肢を駆動するようになっている。シリンダー内部はポリマーリンゲル液(PR液)と呼ばれる液体に満たされており、アイドリング状態ではポンプによってシリンダー内を循環している[5]。
- なお、PR液は気化性と引火性が高いために扱いが難しく、攻撃を受けたATがすぐ爆発する原因の一つにもなっている[6]。また、使用及び経年によって劣化するため、一定周期での交換が必要。
- 外伝作品『機甲猟兵メロウリンク』では、主人公メロウリンクがPR液を爆薬代わりにしたブービートラップを使っている。また、PR液を扱う職人には「味」で質の良さを確かめる者もいる。
- ミッションパック
- ATの背部に装着する機能拡張モジュール。例えばミサイル等の重火器を装備する場合もミッションパックが必要になる。最初は地上用兵器だったATだが、空間戦闘用の「ラウンドムーバーパック」の登場によって、その活動範囲を宇宙にまで広げることになる。
- 降着形態
- ATは胸部全体がコクピットブロックになっている。そこで、パイロットの乗り降りを容易にするために、脚部を大きく変形させて全高を下げる機構が内装されている。また、この機構はパラシュート降下における着地時の衝撃吸収装置としても機能する。
- なお、『第2次Z』ではキリコの搭乗する機体が強化パーツによって飛行している状態で、地上の敵にアームパンチをする際の着地時に見ることができる。
- ローラーダッシュ
- ATの足底にはコアレスモーターのローラーや履帯(キャタピラ)が装着されており、平坦な場所ではこれを使った高速移動「ローラーダッシュ」が可能。
- 水陸両用機では「スワンピークラッグ」と呼ばれるかんじき状の沼地走行装置の側面に取り付けている例が多い。
- ターンピック
- ATの脚部・くるぶしの部分に付いている可動式のスパイク。ローラーダッシュ時に地面に打ち込むことで、AFV(装甲戦闘車両)や戦車ではとうてい真似のできない急速旋回を行なえる。
- OVAではキリコが言った「ターンピックが冴えないな」(=ターンピックの調子が悪くて、うまく旋回ができない)という台詞がボトムズファンの琴線に触れ、鮮やかな旋回を見せる場面は「ターンピックが冴えてるな」と評されるようになった。
- アームパンチ
- ATの前腕部に内装されている格闘戦用装備。炸薬によってマニピュレータを杭打ち機のように瞬間的に押し出す。炸薬は薬莢式になっているので、回数に制限はあるものの連続して打撃を繰り出すことも可能。
- なお、薬莢が排出されるギミックは、高橋良輔監督によれば前作『太陽の牙ダグラム』で共同監督を務めた、故・神田武幸氏がモデルガンマニアで、彼が持っていたブローバック機能によって薬莢が排出される、オートマチックのモデルガンを見て思い付いたとのこと。
- パイルバンカー
- これもATの格闘戦用装備で、巨大な金属製の槍(あるいは杭)を炸薬や電磁力などにより高速射出し、敵の装甲を撃ち抜く。大抵ついでに中のパイロットも串刺しにしてしまうが、ATではそもそもどの武器でも似たような事になるので大差はない。
- 後発のアニメやゲーム作品(無論、スパロボも)に多大な影響を与えた武器として有名…なのだが、実は「パイルバンカー」という名称自体が後付けである。
- 機甲猟兵
- 『機甲猟兵メロウリンク』の主人公メロウリンクの立場である、懲罰やATを損失した事等により生身でATとの戦闘を強制された兵士。
- 一応、対AT用ライフル等の装備は与えられているものの、その実情がAT乗りよりも過酷であることは想像に難くないだろう。生存の為にどんな汚い手段でも講じる事から「ボトムズ(最低野郎)」以下の存在である「戦場の蛭(せんじょうのヒル)」とまで蔑視されている。
- ターレットレンズ
- ATの頭部に装着された三つ目のカメラアイ。これを回転させることでカメラのレンズを切り替え、距離に応じた最適な焦点に合わせる。
- ガチャン!ガチャン!と回転するアクションが最高にむせる。
- 第四話の予告「回るターレットから、キリコに熱い視線が突き刺さる」のフレーズはとみに有名。
- なお、現実にもこの機構は存在しており、身近な例で言えば顕微鏡がそれである。
余談
- 装甲の薄さで有名なATだが、初期段階ではその設定が固まっていなかったのか、『装甲騎兵ボトムズ』第4話次回予告では「故国を守る誇りを厚い装甲に包んだアーマード・トルーパー」と謳われている。
- なお、同上話劇中においてスコープドッグは犯罪者集団から機銃や小型ミサイルの集中砲火を浴びているが、まるで(堅牢な)スーパーロボットのようにびくともしていなかった。
- ATは、後年の作品である『サクラ大戦』の霊子甲冑、『コードギアスシリーズ』のナイトメアフレームにも影響を与えている。
- 『装甲騎兵ボトムズ』の監督である高橋良輔氏によれば、「(高橋監督がまだ子供だった)太平洋戦争の敗戦後の時代に、日本の国土を走り回っていた進駐軍をジープのイメージしたのがATだった」と語っている。
脚注
- ↑ ちなみに、高橋良輔監督はNHK総合の番組『ニッポンアニメ100 ロボットアニメ大集合』(2017年4月7日放送)において「アーマード・トルーパーの全高を敢えて約4メートル前後に設定した理由は、スピード感を出したかったから」とコメントしている。
- ↑ ヒーターは寒冷地での行動中のみでの描写のため、オプションで付けたもので常に装備されている訳では無い可能性もある。
- ↑ なお、アニメのAT戦闘シーンで登場するATが敵も味方も同じ外見の量産型ということがしょっちゅうあったため、声で判断しないと誰と誰が戦ってるのか視聴者に伝わらないという状況がしばしば発生した。
- ↑ ATには自分の視界をパイロットに見せるためのモニターなんて気の利いたものは付いていないので、耐圧服がいらない所でもゴーグルだけは必要不可欠である。
- ↑ 駆動時には電気信号によって化学反応が発生し、マッスルシリンダーが収縮する。PR液はATの全身にくまなくめぐっており、人間で言うなら血液に近い。被弾した箇所からPR液が漏れ出す様子は、人間が怪我で出血した様子を思わせる。
- ↑ それでいて、ATは四肢にもPR液が満たされたマッスルシリンダーが張り巡らされているため、他作品のロボットならば致命傷にならない手足への被弾ですら、PR液への引火による爆発の危険性がある。