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− 『機動戦士ガンダムUC』の鍵となる、箱型であると思われる謎の物体。+
− [[宇宙世紀]]0001年に起きた爆破[[テロリスト|テロ]]「[[ラプラス事件]]」で所在不明となったが、生還者である[[サイアム・ビスト]]がこれを拾って交渉に使い[[ビスト財団]]を創立した。+
− いずこかに秘匿されており、「ラプラスの箱が開かれる時、[[地球連邦政府|連邦政府]]は滅びる」という噂がある。+
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− サイアムの持ち帰った「箱」はオリジナルの石碑であり、これにはレプリカにも刻まれた第六章に加え、[[スペースノイド]]後に言う[[ニュータイプ]]への権利を明文化した七番目の章立てが存在していた。これは、リカルド・マーセナス首相の[[暗殺]]が連邦政府内の極右派による自作自演であることを裏付ける決定的な証拠となりえた(逆に言えば当時はその程度の意味しかなかった)が、サイアムは上手く立ち回ることでそれを握る己を守りつつ「箱」を自身から切り離して秘匿し、同時にいずれ来たる「箱」の開放に備えてビスト財団を作り上げていた。+
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− なお、その第七章第十五条は将来現れる新人類に対して、(「権利を保障する」「平等に扱う」等ではなく)「優先的に政府運営に参画させる」というどうとでも都合良くとれる条文であり、後述の箱の意味の変遷と合わせると、'''立案された当初から問題のある条文'''であるとも言える<ref>そもそも「新人類」の定義自体が明確ではないので、恣意的に適用出来る(宇宙進出を果たしたスペースノイド全体や政治家の都合の良い人間を「新人類」認定して政府運営に参画させられる等)とか、「新人類」が悪意を持つ存在だった場合の事を何も考えていないとか、細かな点においても問題が多い。それ以前に内容自体が'''特定の存在を優遇するという極右思想の現れ'''であり'''問題外'''としか言いようがない。</ref>。しかし、この削除された条文は宇宙世紀という暦が始まる前の歴史の時点で逼塞しつつあった世界の中で、自分たちの子の、孫の、その後の子孫に何か遺してあげたい、という「善意」から端を発しているものであり、「人の行動は全て善意から発しているもの」という機動戦士ガンダムUCのテーマに沿ったものであり、お話の核心部分の秘密として相応しいものといえる。逆に言えば「善意から発した行動が、必ずしも正しいとは限らない」とも言え、実際にその善意は長年の腐敗や動乱を招き、それでいていざ公開されれば時代遅れとして切り捨てられ何の利益ももたらさないと言う、害しかもたらさない結果を招いている<ref>もっともこの辺りは、U.C.0096と言う時代を扱うに辺り、「F91やVなどの未来がすでに描かれているので、劇的に地球圏の体制を変革させるような、革新的な真相をもたせられない」と言うメタ的な事情もあったと言えるが。</ref><ref>なお、結果としてはむしろ'''これでもまだマシ'''であり、下手な者の手に渡っていれば、一年戦争を遥かに上回る最悪の戦乱を招いていてもおかしくなかった。それこそシャア存命中の新生ネオ・ジオンなどはその筆頭であり、それが'''たった3年の差で'''時代遅れになってしまったと言うのも、ラプラスの箱を巡る皮肉であろう。</ref>。それどころか、ラプラス戦争の終結後は、'''何の価値も無くなっていったラプラスの箱よりも、箱に関する秘密を守る為の「鍵」に過ぎなかったユニコーンガンダム自体の方が「シンギュラリティ・ワン」と呼称されて危険視される事になる'''というとことん皮肉な末路を迎える事になっている。+
− ともあれ、この第七条碑文はその内容の問題外っぷりを抜きにしても、将来的に自分たちの権利を「棄民」に譲り渡す可能性を秘めているという意味で、将来的にそれらを受け継ぐ世代の権益を脅かすものでもある。+
− このため、ジョルジュ・マーセナスを始めとする保守派によって自作自演のラプラス事件が発生したわけだが、サイアムが生き残り「箱」を確保してしまったことで、リカルドの後を引き継いだジョルジュ政権にとって彼と「箱」の存在が最悪の脅迫状と化すことになった。
− 当初、「箱」の奪回とサイアムの暗殺計画は難度も持ち上がった。しかし、「箱」を手にしたサイアムの要求は連邦政府に些細な便宜を図らせるなどの政府の存続に影響のない程度であり、政府はリスクを負ってサイアムを消すよりも、主導権を握られた共生関係を続けて様子を見ることを選択。これによりサイアムは、田舎の新進企業であったアナハイムを苗床にしてビスト財団を巨大化させていった。+
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− しかし、言い換えればこの当時はまだ、「箱」の持つ力はその程度のものでしかなかった。レプリカにはない第七条碑文の存在は、リカルドの暗殺がジョルジュ政権によるものだというスキャンダルの動かぬ証拠だが、時が経って当事者がこの世を去れば、それは「だいぶ前の政権が起こした事件の遺物」でしかなくなる。だからこそ時と共に風化し、徐々に価値を失っていくはずだった「箱」だが、ジオン・ズム・ダイクンによって「宇宙に出た人間は、進化しうるといい、棄民たるスペースノイドこそがその魁である」というニュータイプ論、すなわち「宇宙に適応した新人類」が世に出たことにより、スペースノイドの独立運動と合流し、ジオニズムという新たな主義を生み出したことで全てが変わってしまった。
− 「新人類」の権利と政治への優先的介入を明記した「箱」の第七章碑文だが、この「宇宙に適応した新人類」というセンテンスが、よりによって反連邦のリーダーであるジオンその人によって唱えられた「ニュータイプ」と偶然一致してしまったことで、'''「地球連邦はジオニズムと同じ思想を持ち、新人類の発生を予見した上で、それを秘匿・否定していた」という事実が後付けで発生してしまったのである'''(わかりやすく言うと「連邦政府はスペースノイドの権利を認めるつもりがそもそもなかったんじゃないか」という疑惑に裏付けを与えてしまうのである)。もし「箱」の存在がジオニズム信奉者達に知れれば、彼らはその碑文を根拠に政治的権利を主張するのは必然であり、それを拒む連邦との間で激しい衝突が起こることも予想された。<ref>もっとも仮に秘匿されず正式に発表されていたとしても、ジオニズムが唱えられ広まった時点で同じ問題が発生するのは明らかである。</ref>何よりも「存在を知りながら隠し続けた」という事実が、連邦の政治的・思想的な不正義を証明する口実として使われるのは明白であり、連邦政府は沈黙し、秘匿し続けるしか道がなかった。+
− ジオン自身も「新人類」としてのニュータイプなど信じてはいなかったが、それゆえの「中身のないテーゼ」が、「中身のない疑惑」を強めるという意味の分からない状況を作ってしまったのである。+
− リカルドらの残した「祈り」は、この時点で平穏を破壊する「呪い」に変わってしまい、もはや「箱」そのものではなく「箱」を封じたという事実の方が重くなってしまっていた。さらにサイアムが政治工作により「箱」そのものの意味を自らから遠ざけた結果、サイアムの立ち上げたビスト財団を潰しても「箱」の秘密も所在もわからないまま、という状態が成立。この結果、「箱」=宇宙世紀憲章の石碑という単純な真相が世に出ることのないまま、サイアムの存在からその(政府にとっての)危険性だけが一人歩きし、ある種の都市伝説として広まっていくことになった。+
− しかし、結局起きてしまった一年戦争の惨劇により、地球連邦もスペースノイドも甚大なダメージを負い、戦争の中でニュータイプとして開花した者たちの存在から、地球連邦は「宇宙に適応した新人類」の存在を認めざるを得なくなる。しかし今「箱」の真実が知れ渡れば、スペースノイドは連邦を倒すため団結する。戦争のダメージが色濃い今そんなことになれば、人類種そのものが滅んでしまう。その危険があるからこそ、政府は何としても「箱」を隠し続けなければならなかった。一年戦争の惨劇を繰り返さないために、「宇宙に適応した新人類」を旗頭とするスペースノイドの希望を砕くために、ニュータイプを否定しなければならなくなった。+
− ビスト財団や真実を知る者たちの既得権益を守るためだった癒着構造が、戦争を回避しどんな形であれ平和を維持するための必要悪である、と意味付けがなされ、ますます「呪い」が重くなっていったのである。+
− そして皮肉にも、連邦の象徴と言うべきガンダムタイプの乗り手たちは、政府が否定するしかないニュータイプとしての力を開花させていった。ジオンの思想と第七条碑文の正しさを証明する存在に政府は振り回され、ニュータイプが進化の可能性であるという事実を否定するための[[強化人間]]の研究も始まるなど、「呪い」は重くなる一方であった。+
編集の要約なし
== 概要 ==
== 概要 ==
『機動戦士ガンダムUC』の鍵となる謎の物体。『箱』という名称からも箱型であるのは確かである。[[宇宙世紀]]0001年に起きた地球連邦政府の首相リカルド・マーセナスを始めとする多大な犠牲者を出したスペースコロニー「ラプラス」の爆破[[テロリスト|テロ]]である「[[ラプラス事件]]」で所在不明となった事が名称の由来となっている。現在はサイアムの元に秘匿されており、真実か否かは定かでは無いが「'''ラプラスの箱が開かれる時、[[地球連邦政府|連邦政府]]は滅びる'''」という噂がある。
事件当時、テロの実行犯でもある青年…後の[[サイアム・ビスト]]は、仲間達と共に作業艇で撤退する中、証拠隠滅の為に仕掛けられた爆弾により仲間達全員が死亡。ただ一人、船外作業中であったサイアムだけは吹き飛ばされるだけで運良く生き延び、更にはコロニーの爆発で吹き飛んだ「箱」を偶然にも発見し、回収する。その後、裏社会で頭角を現していったサイアムは、ラプラス事件のテロを画策したリカルドの息子ジョルジュ・マーセナスを中心とした保守派勢力への交渉(正確には脅迫)に使う。
「箱」はリカルド・マーセナス首相の[[暗殺]]が連邦政府内の極右派による自作自演である事を裏付ける決定的な証拠となりえた(逆に言えば当時はその程度の意味しかなかった)為、当初は「箱」の奪回とサイアムの暗殺計画が何度も持ち上がったが、「箱」を手にしたサイアムの要求は連邦政府に些細な便宜を図らせる等、政府の存続自体に影響のない程度であった。その為、政府は「リスクを負ってでもサイアムを消す」よりも、「主導権を握られた共生関係を続けて様子を見る事」を選択。これによりサイアムは巧みに共生関係を築いていく事で、当時は田舎の新進企業に過ぎなかった[[アナハイム・エレクトロニクス]]社を急成長させていく。その功績によって、役員待遇でアナハイムに迎えられた後は専務の娘婿となってその地位を強固な物とし、やがてはアナハイムを苗床にして自らを首魁とする「[[ビスト財団]]」を立ち上げ、巨大化させていくまでに至った。
一方、サイアムは「箱」を利用して上手く立ち回る事で、それを握る己を守りつつ「箱」を自身から切り離して秘匿し続け、同時にいずれ来たる「箱」の開放に備える為にビスト財団を作り上げていた。そして、[[第2次ネオ・ジオン抗争]]が集結して3年後、機が熟したと判断したサイアムは「箱」を解放させる為の計画を実行に移し、これが後に「ラプラス戦争」と呼ばれる戦いの引き金となった。
=== 『箱』の正体と顛末 ===
=== 『箱』の正体と顛末 ===
その正体は、宇宙世紀元年を祝してセレモニーで公開されるはずだった、宇宙世紀憲章を認めた石碑。サイアムの眠る氷室を収めた航宙艦メガラニカに封印されている。
その正体は、宇宙世紀元年を祝してセレモニーで公開されるはずだった、宇宙世紀憲章を認めた石碑。サイアムの眠る氷室を収めた航宙艦メガラニカに封印されている。
サイアムの持ち帰った「箱」はオリジナルの石碑で、これにはレプリカにも刻まれた第六章に加え、「七番目の章立て」が存在していた。その内容とは…
:'''第七章 未来 第十五条'''
:'''地球連邦は大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備するものとする。'''
:1.地球圏外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。
:2.将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする。
「宇宙に適応した新人類」…つまりは「[[スペースノイド]]の中から生まれた[[ニュータイプ]]」への権利を明文化したと解釈出来るこれは、「'''将来現れる新人類に対して優先的に政府運営に参画させる(「権利を保障する」「平等に扱う」等ではない)'''」というどうとでも都合良くとれる条文で、後述の箱の意味の変遷と合わせると、'''立案された当初から問題のある条文であった'''とも言える<ref>そもそもリカルドが勝手に決めた「新人類」の定義自体が曖昧なので、「幾らでも恣意的に適用出来る(宇宙進出を果たしたスペースノイド全体や政治家の都合の良い人間を「新人類」認定して政府運営に参画させられる等)」、「『新人類』が悪意を持つ存在だった場合の事を何も考えていない」等、細かな点においても問題が多い。それ以前に「客観的に見れば、内容自体が'''特定の存在を優遇するという極右思想の現れ'''であり'''問題外'''」としか言いようがない。</ref>。しかし、この削除された条文は宇宙世紀という暦が始まる前の歴史の時点で逼塞しつつあった世界の中で、「自分達の子の、孫の、その後の子孫に何か遺してあげたい」という「善意」から端を発しているものであり、「人の行動は全て善意から発しているもの」という機動戦士ガンダムUCのテーマに沿ったものであり、お話の核心部分の秘密として相応しいものといえる。
だが、逆に言えばリカルドの行いは、「『善意』から発した行動が必ずしも『正しい』とは限らない」とも言え、実際にその善意は長年の腐敗や動乱を招き、公開されようとした時には「箱」を利用しようとした『[[袖付き]]』を中心とする[[ジオン残党軍]]や「箱」の開放を恐れた連邦政府、アナハイムの首脳陣達が総じて暴走し、[[バナージ・リンクス]]を始めとした戦争とは無縁であったはずの若者達までもが巻き込まれ、理不尽に殺される者達までもが出てしまった。それでいざ公開されれば、「時代遅れ」として切り捨てられ何の利益ももたらさないと言う顛末が待っていただけで、結局は害しかもたらさなかったという事実だけを残す事となっている<ref>もっともこの辺りは、U.C.0096と言う時代を扱うに辺り、「F91やVなどの未来がすでに描かれているので、劇的に地球圏の体制を変革させるような、革新的な真相をもたせられない」と言うメタ的な事情もあったと言えるが。</ref><ref>なお、結果としてはむしろ'''これでもまだマシ'''であり、下手な者の手に渡っていれば、一年戦争を遥かに上回る最悪の戦乱を招いていてもおかしくなかった。それこそシャア存命中の新生ネオ・ジオンなどはその筆頭であり、それが'''たった3年の差で'''時代遅れになってしまったと言うのも、ラプラスの箱を巡る皮肉であろう。</ref>。それどころか、ラプラス戦争の終結後は、'''何の価値も無くなっていったラプラスの箱よりも、箱に関する秘密を守る為の「鍵」に過ぎなかったユニコーンガンダム自体の方が「シンギュラリティ・ワン」と呼称されて危険視される事になる'''というとことん皮肉な末路を迎える事になっている。
ともあれ、この第七条碑文はその内容の問題外っぷりを抜きにしても、将来的に自分たちの権利を「棄民」に譲り渡す可能性を秘めているという意味で、将来的にそれらを受け継ぐ世代の権益を脅かす物であるのは間違いなかった。この為、ジョルジュを始めとする保守派によって自作自演のラプラス事件が発生した訳だが、サイアムが生き残り「箱」を確保してしまったという全くの想定外の事態が発生した事で、リカルドの後を引き継いだジョルジュ政権にとって彼と「箱」の存在が最悪の脅迫状と化すことになった。
=== 『箱』の意味の変遷 ===
=== 『箱』の意味の変遷 ===
サイアムが回収し脅迫に利用した「箱」の持つ力は、「リカルドの暗殺が息子のジョルジュを中心とする政権による陰謀だった」というかつての連邦首脳陣に関する一大スキャンダルが暴露される程度の物でしかなかった。レプリカにはない第七条碑文の存在は、時が経って当事者がこの世を去ってしまえば「だいぶ前の政権が起こした事件の遺物」でしかなくなり、だからこそ時と共に風化し、徐々に「箱」の価値を失われていくはずだった。
だが、ジオン・ズム・ダイクンによって「宇宙に出た人間は、進化しうるといい、棄民たるスペースノイドこそがその魁である」というニュータイプ論、すなわち「宇宙に適応した新人類」の仮説が世に出た事、そしてそれによりスペースノイドの独立運動と合流し「ジオニズム」という新たな主義を生み出された事で全てが変わってしまう事態となった。「新人類」の権利と政治への優先的介入を明記した「箱」の第七章碑文だが、この「宇宙に適応した新人類」というセンテンスが、よりによって反連邦のリーダーであるジオンその人によって唱えられた「ニュータイプ」と「最悪な偶然」という形で一致してしまった事で、'''「地球連邦はジオニズムと同じ思想を持ち、新人類の発生を予見した上で、それを秘匿・否定していた」という事実が後付けで発生してしまったのである'''(わかりやすく言うと「'''連邦政府はスペースノイドの権利を認めるつもりが最初から無かったんじゃないか'''」という疑惑に強固な裏付けを与えてしまうのである)。
もし「箱」の存在がジオニズム信奉者達に知れれば、彼等はその碑文を根拠に政治的権利を主張するのは必然で、それを拒む連邦との間で激しい衝突が起こることも予想された。<ref>もっとも仮に秘匿されず正式に発表されていたとしても、ジオニズムが唱えられ広まった時点で同じ問題が発生するのは明らかである。</ref>何よりも「存在を知りながら隠し続けた」という事実が、「連邦の政治的・思想的な不正義を証明する口実」として使われる(「箱」の内容の文章が、連邦政府の首脳が法的な手続きや議会・世論の了承を完全に無視して記したという「事実上の越権行為」である事を無視される形で)のは明白であった為、連邦政府は沈黙し、秘匿し続けるしか道がなかった。当のニュータイプ論を唱えていたジオン・ズム・ダイクン自身も「新人類」としてのニュータイプなど信じてはいなかった<ref>デギン、ギレンの親子双方からは「ジオンはあくまでもアジテーターでしかなく、政治的に理想を実現させる人物ではなかった」と見做され、息子であるキャスバル(シャア)でさえも、父・ジオンの語ったニュータイプ論はあくまでもサイド3という僻地に移民させられたスペースノイドの拠り所を持たせる為の方便で、「本質的にはダイクンの自己欺瞞に過ぎない」という真実を看破されてしまっている。</ref>が、それ故の「『中身のないテーゼ』が『中身のない疑惑』を強める」という意味の分からない状況を作ってしまったのである。
リカルドらの残した「祈り」は、この時点で平穏を破壊する「呪い」にでしか無くなり、もはや「箱」そのものではなく「箱」を封じたという事実の方が重くなってしまっていた。更にサイアムが政治工作により「箱」その物の意味を自らから遠ざけた結果、「サイアムの立ち上げたビスト財団を潰しても『箱』の秘密も所在も全く分からないまま」という状態が成立。この結果、「『箱』=宇宙世紀憲章の石碑」という単純な真相が世に出る事のないまま、サイアムの存在からその(政府にとっての)危険性だけが一人歩きしていき、ある種の都市伝説として広まっていくことになった。
そもそも、ニュータイプと呼ばれる事になった者達の本質は、身も蓋もない事を言えば「直感力や洞察力が他の人間に比べて高度に備わっていて、[[サイコミュ|その脳波を利用したシステム]]を使える特殊能力を持った人間」でしかなく、ジオン・ズム・ダイクンが提唱した「宇宙に適応した新人類」とされるニュータイプと同一である根拠など全く無かった。ただ単に、ダイクンの唱えたニュータイプの概念が、特殊能力に目覚めた人間達と「何となく一致している様に見えた」という単純な理由から、ダイクン本人の死後に世論が勝手に彼等を「ニュータイプ」であると定義しただけでしか無いのだが、「ニュータイプ」と呼ばれる様になった彼等の起こした「奇跡」とも解釈出来る光景から、世論…特にスペースノイドの多くは彼等を「ニュータイプ」であると断じて疑わない主張をし続け、遂には地球連邦側も「ニュータイプ」と呼ばれる者達を「宇宙に適応した新人類」の存在を認めざるを得なくなる。
しかし、今「箱」の真実が知れ渡れば、ジオンを信奉するスペースノイドだけでなく、ジオンに反感を抱き連邦側についているスペースノイド達でさえも掌を返して連邦を倒す為に団結し、'''最悪の場合は「アースノイドとスペースノイドの二分化による真の意味での殲滅戦争」となってしまう可能性'''も否定出来なかった。戦争のダメージが色濃い今そんなことになれば、人類種そのものが確実に滅んでしまう。その危険があるからこそ、政府は何としても「箱」を隠し続けなければならなくなり、一年戦争の惨劇を繰り返さない為、「宇宙に適応した新人類」を旗頭とするスペースノイドの希望を砕く為、ニュータイプを否定しなければならなくなった。もはやそこには連邦側にとっての利益や保身など関係は無いも同然で、ビスト財団や真実を知る者たちの既得権益を守るためだった癒着構造は「『戦争』という最悪な事態を回避し、どんな形であれ『平和』を維持していく為の必要悪である」と意味付けがなされ、ますます「呪い」が重くなっていったのである。
そして皮肉にも、連邦の象徴と言うべき[[ガンダムタイプ]]の乗り手達の多くは、政府が否定するしか無かったニュータイプとしての力を開花させていってしまう。「『ニュータイプ』と称されるジオンの思想と第七条碑文の正しさを証明し得る存在」に政府は振り回され続け、「ニュータイプが進化の可能性である」という事実を否定する為に「[[強化人間]]の研究」という更なる非道にも手を染めなければならなくなる等、「呪い」は重くなる一方であった。
だが、政府は最終的にこの「呪い」にケリをつけるべく、人工ニュータイプとガンダムを用いてジオニズムとニュータイプを根絶する計画を始動。これにサイアムが相乗りし、「箱」の開放を決断したことで、ラプラスの箱を巡る最後の戦いが始まったのである。
だが、政府は最終的にこの「呪い」にケリをつけるべく、人工ニュータイプとガンダムを用いてジオニズムとニュータイプを根絶する計画を始動。これにサイアムが相乗りし、「箱」の開放を決断したことで、ラプラスの箱を巡る最後の戦いが始まったのである。